温もり

 

「ナミさん、もう食べないんですか?」
フォークを置いたナミの皿にはまだたくさん料理が残っている。
もしかして口に合わなかったのかと、サンジが心配そうに聞いてきた。
「・・・ん・・・ごめん。ちょっと具合悪くて。残してごめんなさい。少し、部屋で休むわ。」
そういうナミの顔は少し青ざめていて、その様子にサンジは何か思い当たったようにこくこくとうなづいた。
隣に座っていたゾロは和訳が分からないまま二人を交互に見ていた。席を立ったナミは足取り重く女部屋へと向かっていった

 

食事が終わり、キッチンが片づいてもナミが部屋から出る様子はない。ゾロはやや心配になり、見えるはずのない方向へ視線を泳がせる。
その反対側でサンジがチョッパーを呼び、なにやら耳打ちをしている。

その様子になぜかいらついて、椅子から立ち上がり、二人の方へ行った。

「何こそこそしてるんだよ。」
「っせえな。だまっとけ唐変木。」
「んだと!なんだってんだ!てめえ!」
「鈍感野郎が。」
そういってまたチョッパーとこそこそと話を始める。
その内容がナミのことだというのはゾロにも察しは付いた。しかし、自分が気づいていない何かで二人が話していると言うのが彼のかんに障った。

「ナミの話だろ?何こそこそしてんだよ。また病気がぶり返しでもしたのか?」
そういうと、やっと二人がこちらを向いた。
「ほんっと鈍感だなあ。てめえ、食事で隣り座っててわかんねえのか?生理だよ。生理。」
「・・・。」
その言葉にゾロは顔を赤らめた。
気づかなかったがナミも女性だ。それがあって当然だが・・・。
「で?なんでおまえらでこそこそ話してんだよ。」
なんとか平静さを保ち、二人を指さす。
「生理痛がひどいみたいなんだ。病気もあったし、気候の変化も激しかったから周期狂ってたみたいなんだ。で、薬の調合と、サンジには何を食べさせたらいいか教えてたんだ。」
チョッパーの至極まともな口調に、恥ずかしさもどっかへ吹き飛んでしまってゾロは納得の表情を見せた。
「とりあえず航路はロビンお姉さまとウソップに任せてる。俺はナミさんのために愛の手料理でもつくるかなー。」
「じゃ、俺も薬を作るか。」
そういうと二人はほぼ同時に椅子から立ち上がり、ゾロはそこに取り残され、呆然としていた。

 

女部屋の前でゾロは躊躇していた。
具合はどうかとさりげなく部屋に入れば問題ないだろうと自分に何度も言い聞かせ、女部屋の扉をたたいた。
「ナミ・・・?」
呼んでみるが返事はない。
ためらいながらもドアを開けると中は暗く、暑さのせいか少し汗ばむような空気が流れてきた。
「ナミ・・・入るぞ。」
一応声をかけて中に入る。


初めて入る女部屋。男部屋とは違い、甘い匂いがしてくる。
階段を下りていくたびにその匂いが強くなるようでゾロは鼓動が早くなるのを押さえられなくなっていた。


「ナミ?」


部屋においてあるソファに布団にくるまってナミが寝ていた。

ぴくりとも動かないのでいやな予感がよぎり、あわててそこに駆け寄る。
「おい、ナミ。」
顔をのぞき込み、どきりとした。
青ざめた顔で荒く息を吐き、額には脂汗をかいている。
おもわずケスチアに冒されていたナミを思い出し、強く肩を揺さぶる。
「大丈夫か?」
「・・・ゾロ・・・。」
目だけでゾロを確認するとまた眉をゆがませて腹を抱えるように身体を丸めた。
「おい、大丈夫か?」
それしかいえない自分にいらつきながらナミの肩をもう一度揺さぶる。
「大丈夫!もう!ほっといて!」
明らかに機嫌は悪い。しかし、そこまで悪態をつけるのなら大丈夫とほっと胸をなで下ろした。
「・・・今チョッパーが薬作ってるから・・・。」
そういうとナミがぱっと顔を上げた。
「なんで!?なんでチョッパーがそんなことしてるの!?」
「なんでって・・・生理痛なんだろ?」
そういうとナミの顔がみるみる赤くなった。
「なんであんたが知ってるのよ!」
「なんでって・・・サンジが・・・。」
詰め寄るナミに押され、思わずのけぞりながら答えた。
「・・・もう・・・やだ!」
そういうと布団を頭からかぶりいやいやと頭を振った。
「そんな恥ずかしがることでもねんじゃねえの?」
「うるさい!この無神経!・・・」
そういってまた身体を小さく丸めた。
「おい、痛えのか?」
「・・・うっさい・・・。」
そういうナミの顔は苦しげにゆがんでいて、ゾロはどうしようかと手を泳がせていた。
ナミの頬を汗が流れるのを見て、それをそっとシーツの端で拭った。


何とかしてやりたいが自分には何も出来ない。
また無力感がわき出てくる。


「ゾロ・・・。」
「なんだ?」
呼びかけられ、思わず身を乗り出す。
「ごめん・・・腰・・・触ってくれる・・・?」
「は?」
ナミの言葉の意味が掴めず、素っ頓狂な声を出す。


「腰・・・暖めれば少し楽なの・・・。・・・暖めて・・・。」


ナミの言葉にどくりと心臓が鳴った。


布団の上からおずおずと腰のあたりに手を乗せるとなぜかひんやりとした感覚が伝わってくる。


「・・・これでいいのか・・・?」
「・・・うん・・・。」


なるべく熱が伝わるように手の平を布団に軽く押しつける。
そこからでもわかる腰の細さに思わず唾を飲み込んだ。


「・・・ゾロの手・・・暖かい・・・。」
「そ・・・そうか?」
もう片方の手も腰に乗せる。
先ほどより、幾分暖かかくなってきた腰は、緊張も解けたのか柔らかくも感じる。
しばらくそうしているとナミの呼吸も落ち着いてきて、ゾロは安心したようにため息をついた。
「だいぶ楽か?」
「・・・うん・・・。」


夢心地のように声にまた身体が跳ねた。

どうしちまったんだ。俺は。

そんなことを考えながらしばらくそうしていた。

 

どれくらいそうしていたのか、気づくとナミはすうすうと寝息を立てていた。
冷たかった身体は少し暖まったようで、手に伝わる熱も心地よいものになっていた。

「・・・。」
そっと片方の手をはずし、ナミの顔に張り付いている髪をよける。
青ざめていた顔にも朱が指し、それを見てほっと胸をなで下ろした。

以前ケスチアで倒れたときには何も出来なかった。
その時ほど自分の無力さを感じたことはなかった。
でも、今回は状況は違うにせよ、ナミに何かしてあげれたことがゾロにかすかな満足感を与えた。

それにしても女ってのは大変だなあ。

 

横たわる姿に目を落としながらそんな事を思った。

ナミは相変わらず起きる気配はなく、力無くソファに横たわっている。

腰に置いた手をどうしようか、ゾロは考えあぐねていた。
片方の手をいたずら心で背中に置いてみる。

それでも起きる気配はない。

細い背中をその手でなでてやるとかすかに身じろぎはしたものの、目を開ける事はなかった。

ゾロは高鳴る心臓の音を聞きながら、それを繰り返していた。

手を頬に当て、柔らかな感触を楽しむ。
美しい横顔に引き込まれるように身を乗り出し、何度も頬をなでる。

指が、唇に触れた。

その柔らかい感触はゾロの体中にいいようのない感情を巻き起こした。

触れた指をそのままにそっと顔を近づけていく。
指に触れる吐息、もう少し身を乗り出せば触れれる距離。

ゾロはごくりと唾を飲み・・・そして・・・。

 

「ナミ。起きてるか?」
ノックの音とともにチョッパーの声が響いた。


それにあわてて身体を起こし、ナミの頬に触れていた手をばたばたと振る。

「あ・・・ん?チョッパー?起きてるわよ。」
むにゃむにゃと目をこすりながらナミが身を起こした。
それを聞いてチョッパーが女部屋に入ってくる。
「ナミ、顔色が少しはいいな。ほら、薬だ。」
小さな袋に入った薬をナミに手渡し、説明をしているのをゾロは遠くから見ていた。
「ゾロが腰暖めてくれたの。だいぶいいわよ。」
「そうか。なら大丈夫だ。」
「ありがとう。ゾロ。」
その屈託のない笑顔に多少の罪悪感を感じながらもゾロは、ああ。と一言だけつぶやいた。

「じゃ、なにかあったら言えよ。我慢するなよ。」
「うん。わかった。」

そういってチョッパーが部屋を出ていって、二人だけ残された。
なんとなく居心地が悪く、ゾロがよいせと立ち上がった。

「行くの?」
「ああ、もうだいぶいいんだろ?」
「まあね。ありがとう。」
「・・・。」
それには答えず、扉へ向かおうとナミに背を向けると、突然背中に柔らかいものが当たってきた。
首だけ振り返るとナミが自分の腰に抱きついているではないか。
ゾロはあわててそれをはがそうと手を背中にまわした。

「暖かかったよ。ゾロ。今度はちゃんとマッサージしてね。」

にやりと笑うナミにしまったと頭を抱えながら、ゾロは笑った。
「ああ、いいぜ。いっとくが、俺のマッサージはすげえ気持ちいいからな。腰抜かすなよ。」
「・・・すけべ。」

そういうとさっさと手を離し、また布団に潜り込んでしまった。
ゾロはそれを確認して女部屋を後にした。

なぜかわからない満足感をいっぱいにして・・・。

 

一応まだ二人は出来ていない設定なんですけど・・・。
支離滅裂だね。あーあ。
夢だから。うん。夢。 そして挿し絵なぞ・・・。
生理痛はつらいんよ。うん。