「ンマー。どうだ?はかどっているか?」
ドッグの視察に来たアイスバーグが大工達に声をかけた。
「順調です!」
「任せて下さい!」
それに合わせあちこちから声があがる。この声の調子からも彼の人気の高さが伺える。
昨日受けた仕事もこの調子なら予定より早く終わりそうだ。
そう告げるとアイスバーグは満足げにうなづいた。

「こらあ!てめえ!またそんなハレンチな格好で!!!」
そう食ってかかってきたのはパウリー、アイスバーグがお気に入りの船大工だ。
「ハレンチとはなんですか。そう言うあなたの方がハレンチです。」
「なんだと!俺のどこが・・・!」
「まあまあ、落ち着け。言ったってしょうがないじゃろう。」
止めに入ったのはカクだ。
最近めきめき腕を上げてきた男、カク。・・・私の裏の同僚だ。
「ってもよう。」
「そういうのに敏感なのが一番スケベなんだぞ!」
「そうだそうだ!」
周りの男達がはやし立てる。パウリーは激怒し、カクもアイスバーグも私も笑った。

 
 
一日の仕事が終わり、部屋に戻ると本来の私に戻る。
鏡に映るのは秘書ではなく、闇に生きる女の姿。
ウォ-ターセブンでの身分も、人間関係も私にとっては通り抜ける風のようなものだ。
昼間の笑い声でさえ、薄っぺらい仮面をかぶっていても出せる。この街にきてから心から笑った事はない。
「・・・今まで笑った事があったかしら?」
ふと独白し、その事実のおかしさに唇が歪む。
 
この街にはすでに仲間が何人も入り込んでいて、それぞれ情報収集にあたっている。その傍ら、仲間がヘマをしないように監視もしているのだ。
殺されないと言うことは裏切っていない証拠。
所詮その程度の関係。
隣で話している人間も状況が変わればためらいなく殺せる。
 
それがCP9
 
この街での自分の立場も、CP9としての立場も対して変わらない。
目の前にある事を片付けていけばいいのだ。
すくなくともその時はそう考えていた。
 
 


 
 
 
肉を切り裂く音が遠くに聞こえる
 
断末魔、破壊音、炎が立ち上り、見慣れた建物が焼けていく。
それらが全て、目の前を通り過ぎていく。
 
目の前に映るのは消さなくてはならない『物』。
 
今までのように、過ぎ去れば忘れれてしまうもの--------のはずだった。

 

 
「思い出にしたかった」

 

 
出てきた言葉に私自信驚かされた。
どういう理由でそんな言葉が出てきたのかも理解できない。
 
ただ、殺してきた人も、燃やした建物も覚えていないというのに、正体を明かした私を見たアイスバーグの顔が目に焼き付いた。
 
 

 


 
電車固有のレールの音を聞きながら流れる景色をぼんやりと眺めていると、となりにカクが座った。
「席は他にも空いてるわ。」
となりを振り向かずにそう言い放つ。
「どこに座ったっていいじゃろう。この車両は貸し切りじゃし。」
二人がけの椅子とは言え、カクの身体は意外に大きく、私は身体をずらす事を余儀無くされた。
カクはずるずると身体を前のめりにさせ、椅子に深く座り込んだ。
どうやらここから動く気はないらしい。
「・・・目的地まで長いわ。」
「そうじゃな。」
カクは深く帽子をかぶり、手を前に組んだ。
親指をくるくる回しながら何か考え込んでいるようだ。
ふと昼間の楽しげなカクの様子が思い出された。
 
「・・・忘れられる?」
「・・・忘れるさ。目的地までは長い。」
 

 

あの見開いた目を、流した血を、全てを記憶から消さなくては。
 

 


そのためにはこの列車での距離など短すぎる事ぐらい私も彼も知っていた。

 

 

 

 

顔も合わせない、言葉も交わさない。
そんなカプ(?)話が好きです。