傷跡

 

赤い-------夢を見る---------

 

その赤はどこかどす黒い。

実際に目の前にいる人間は血を流してなどいない。
でも確かに薄く微笑んでいるその人はいつも血を流していた。
声をかけようとするが彼女はそれを拒絶する。これが私の歩んできた道。それは決して間違いってないはずだと、胸元を苦しげに押さえていた。

 

私は彼女をしっている。

 

肩で切りそろえられた黒髪。
掘りの深い顔はエキゾチックで、黒い瞳は凛として遠い目標を見据えている。

そう-----------

あれは------------私だ--------------------!!

 

 

 

「ロビン!!」
揺り起こされ、深い闇から引きずり出される感触。
目の前の人間に焦点をあわせるとそれは見知った顔。

 

-------ナミ-------この船の航海士たる人物。


「大丈夫?うなされてたわよ?」
確かに額にはべっとりと汗をかいていて、薄いシャツは肌にはりついている。
「・・・わざわざ起こしてくれたの?ありがとう。」
身体を起こすと胸元に置いた分厚い本がばざりと落ちる。
「きっとこの本が悪夢の原因ね。」
誰にいうでもなくその本を拾い上げる。昔から大事にしてきたポーネグリフの資料。その重さは決して紙だけではなく、それに書かれた真実の重み、そして私への枷。
空は青く澄み切っているというのに夢で見たあの赤が忘れられない。
「ロビン?痛いの?」
「え?」
「だって、さっきから胸を押さえているから。」
いわれてはっとした。確かに無意識のうちに胸元を押さえている。
「大丈夫よ。きっと・・・思い出したからかもね・・・。」
目的のために切り捨ててきた人たち、彼等の痛みが今になって心を苛めているのか。
「とりあえず日陰で休んだら?最近海が荒れてたから疲れてるのかもしれないし。」
「ありがとう。優しいのね。」
「・・・!!べ・・・別に感謝される事なんかしてないわ!ロビンがうなされてるの気付いたのはゾロだからね!お礼はゾロに言って!」
「あら、本当に?」
「そうよ、昼寝しようと甲板にいったらロビンを見つけたんですって。・・・あいつはそういうのに勘がいいのよ。」
「そう、なぜかしらね?」
「あいつ、胸に大きい傷あるでしょ?・・・きっとそれと同じくらい心に傷があんのよ。だから同じような人間は分かるんじゃない?」
「心に・・・傷・・・?」

初めて聞いた。そんな言葉。言われてみれば胸が痛かったのはいつも誰かを傷つけた時だった。


「そう・・・。」
そう思うとふっと気持ちが軽くなった。
「・・・心の傷なんて、本人にしか分からないけど治療法が分からないからたち悪いわよね!・・・そのまあ、言って楽になれるんだったら聞くけど?」
くるくるとした瞳でこちらをのぞきこんでくる様子はまるで猫のよう。
そうか、この船が居心地がいいのはきっとクルーが全員、他の人を気づかっているからなのね。
「・・・今は無理だけど・・・いつか、そう、もう少ししたら話すわ。そしたら聞いてくれる?」
「もちろんよ!」
大きな瞳はきらきらと輝いた。


私が持っている全てを話せば否応なく彼等は理不尽な闘いに巻き込まれるだろう。
きっとあの船長ならそれすらも冒険と言ってのけるに違いない。
一緒に旅をしようと、もうお前は仲間だと、真直ぐな瞳で。

でも、果たしてそれでいいのだろうか。

分かっているのは、その時こそ、私の「孤独」と言う傷は癒えるということだ。
大きな犠牲をはらって、小さな幸せを手に入れる事が私の望みなのか・・・・?

 

 

-----------その答えはもうすぐ出る-----------

 

 

 

 

「心の傷は簡単には癒えないの」

彼女はそうに呟いた