喧嘩

 

ナミは今日のデザートのために蜜柑を詰んでいた。
足下には気持ちよさそうに寝ている剣士が1人・・・。
「ちょっと。」
こつんとその頭をサンダルでつつくと微かに目を開けてこちらをちらりと見る。
「寝てるなら手伝って。今日の皆のデザートになるんだから。」
そういうとしぶしぶ立ち上がった。
『皆の』というとゾロは大体手伝ってくれる。ナミ個人の願いはなかなか聞いてはもらえないが・・・。
「どれを取るんだ?」
「あの上の蜜柑。」
ナミが指差した方向には蜜柑が見えなくて、ゾロは一歩歩み寄った。
「どれだよ。」
顔をあげると光が目に入って蜜柑が見えない。ゾロはナミの位置から見ようと歩を進めた。
「あれだってば。もう、見えないの?」
ナミは上を指差したまま、振り返った。
「・・・!」
「・・・!」
振り返ると丁度そこにゾロの顔があり、微かだが唇が触れた。ゾロはいつの間にか自分のすぐ後ろに来ていた事のだった。
「!!!!!!なにすんのよ!」
「ああ、わりい。」
ナミは即座に距離をとったがゾロは気にもかけぬ様子で、ああこれかと蜜柑に手を伸ばしている。
「・・・・・ちょっと!!!仮にも乙女の唇奪っといて何!?その態度!!」
ナミはきいきいと怒鳴り立てた。同じ船に乗る大事な仲間とはいえ、ゾロとナミはそこまでの関係ではない。一瞬とは言え唇が重なった事は事実なのに気にもとめぬその態度にナミは怒りを隠せなかった。
「ああ?あんなん事故だろ。別に気にするようなことでもねえだろ。」

 


き に す る よ う な こ と で も な い ?

 


その言葉がナミの勘に触った。


「あーら、ずいぶん余裕の発言ねえ。あんたにとってはキスなんてなんでもないことなんだ。」
嫌味たっぷりでそういうとゾロははあと大きなため息をついた。
「何がキスだ。あんなんぶつかっただけだろ。握手とかわんないだろうが。」
何かが何の中でぷっつんと切れた音がした。
つかつかとゾロに歩み寄り、その脚を払う。
「うを!」
不意をつかれ、ゾロはその場に腰をつく。
見上げる目には怒りはなく、ただ興味深そうにナミを見上げている。
「黒か。」
「みるな!エロ剣士!」
そういうとゾロの上に馬乗りになるように腰を落としてきた。
ゾロの眉が微かにあがる。
つけていた手袋をとって頬にかかる髪をさっと払う。
目の前で揺れる胸や柔らかな腿の感触がゾロを楽しませる。
ぴゅうと唇を鳴らすとナミはじろりと睨んできた。
色気も素っ気もなくゾロの唇に自分のそれを重ねる。
「・・・!」
ゾロは最初のうちは驚いたが、ナミはぱっちりと目を開けて唇を動かすわけでも身を任せてくる訳でもなく、唇を触れあわせているだけだ。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


真っ向から至近距離で数分見つめあってるがナミに動きはない。


情緒も何もあったものではない。


ゾロはしょうがねえなあと言った感じでそっとナミの腰に手を回し、唇をはもうと微かに動かすと・・・。
「さかってんじゃないわよ。馬鹿。」
ナミはふいと身体を離すと、してやったりと言った顔で口を緩めた。


「挨拶なんでしょ?これぐらい。」


ナミの言葉にやっと合点が言った。
ははあ。と小さく漏らすとゾロはちょいちょいと指でナミを招く。
ナミもふん。と鼻を鳴らしてもう一度唇を重ねる。


先ほどよりもしっとりと重なる唇は互いに動く事もなく、目線はかちりと互いの目に固定されたまま。まばたきがおこす小さな風が互いの顔の間を行き来する。
深い緑の瞳はどこか楽しそうに光っていて、そのわずかな光がナミの目を通してじっとりと身体に入ってくる。
なんだかこうなるともう意地の張り合いで先に目を閉じた方が負けのような気がしてくる。
すこしずつ心泊数があがってくるような気もするが前屈みの無理な体勢をしているので疲れているだけだ。現に身体を支えてる腕が重みに耐えて微かに震えている。
ゾロはゆったりと後ろに手をついていかにも楽そうな姿勢をとっている。


むかつく。


ナミは睨み付けるが、ゾロはどこ吹く風。


腕の震えが頂点に達し、右手をゾロの胸に置く。
厚い筋肉の感触が手のひらを通して伝わってくる。
鼓動は相変わらず規則正しいリズムを奏でている。ゾロの腕がそっと動き、ナミの左胸に添えられた。お返し、とでもいうのだろうか。


鼓動が早いのを気付かれたのかもしれない。一瞬だけゾロの瞳が細くなったような気がする。
なんだか急に息苦しくなった気がした。大きく息を吸いたいが唇を離して負けた事にはならないだろうか。ナミは考えた。


合わせた唇が乾いているのか湿っているのかも分からない。

 


息を吸いたい。大きく、深く。この不自然な体勢からも逃れたい。

 


ちらちらと動く目線と早くなる鼓動に焦りが出てくる。


自分が仕掛けた勝負で負けたくはないし、かといってこのままの状態を続けるのも・・・。ナミは考えあぐねていた。

 


すると、すっとゾロが目を閉じた。

 


あ、勝った。と思う間もなく、身体を起こしたゾロに腰ごと抱えられ、固く閉ざされた唇に噛み付かれるように吸われた。


「・・・ちょ・・・。」


抗議する間もなく唇を塞がれて、その隙間から新鮮な空気がイヤという程流れ込む。
左胸に置かれた手はいつの間にやら直に肌に触れていて、あれよあれよという間に挨拶どころではないところまで追い込まれる。

 


内心、しまった。と思いつつも『負けるが勝ち』という言葉もあったなあととろけた頭で考えた。

 

 

ネタ提供ダーリン。私がちゅーだと思っていた行為はじつは握手レベルだったらしい。がーーーん。
エロ臭くない二人を書きたかったんです。・・・まぢです。ほんとです。え・・・ろ・・・くさいかなあ・・・?