MEN5

 

ホテルへ行くまでの間、サンジ君は何も喋らなかった。
時折、私が道を指し示すだけでそれ以外何もなかった。
重苦しい雰囲気の中ホテルの入り口についた。
「・・・ありがとう。
サンジ君。」
「・・・ナミさん。」
不意に手を捕まれ、どきりとする。
「ほんとならあいつのところになんか帰したくない。」
絞り出すような声に全身が震える。
掴まれた手は熱く汗ばんでいて、振りほどけない。
「わがままだって分かってます。でも・・・。」
急に壁をたたく大きな音にサンジ君の声は遮られた。
音のした方を向くと、ゾロが壁に手をつけ、こちらを睨んでいた。
たたかれた壁からぱらぱらと漆喰が落ちる。
「・・・ゾロ。」
身体の力が抜ける。
ゾロは今だ険しい顔をしている。
「・・・。」
サンジ君は何も言わず、私の腕を離す。
腕にひやりと風が当たる。
重い空気は変わらないが、どこかホッとしている自分がいた。
「じゃあ、ナミさん。また。」
その言葉に何か含むものを感じたが、この重い空気から解放されるなら何でもいいと、特に聞くような事はしなかった。
「じゃあな。」
ゾロと通り過ぎる真際にサンジ君が囁いた。
ゾロはますます不機嫌そうに去って行くサンジを睨み付ける。
「・・・ゾロ?」
恐る恐る呼び掛けると表情を変えず振り返る。
「ゾロ?」
何も言わず歩いてくるゾロに恐怖を感じ、身をすくませる。
「風邪引くぞ。早く部屋に入れ。」
かけられた言葉は意外に優しく、ゾロに手を引かれ、部屋に入る。
「ねえ、ゾロも出かけてたの?」
部屋に入るなり、ブーツを脱ぎ捨てるゾロに聞く。
「・・・ああ。」
「サンジ君とお酒飲んでたの。きっと酔っぱらってたのよ。さっき。」
「・・・なわけねえだろ。」
シャツを荒々しく椅子に投げ付けると、椅子がその勢いで床へ倒れる。
その音にビクッと身体が震える。
「なんで怒ってるの?」
「怒るさ!お前は警戒しなさ過ぎなんだよ!!」
「警戒って何よ!」
言われた意味が分からず、反論する。
「何回言ってもわかんねえやつだな!放っといたらあのエロコックにいいようにされてただろうが!」
「・・・何言ってるの?だってサンジ君よ。」
「だからだろうが!」
ゾロに腕を捕まれ、その痛みに顔をゆがめる。
「ゾロ!痛い!」
「振りほどけるなら振りほどけよ。俺が言ってるのはこういう事なんだよ!そんな細い腕で男にかなうとでも思ってるのか!?」
その言葉に、霧がかかっていたような不安の説明がついた。


私は女なんだ。
もし、他の飢えた海賊の目の前に私が現れたら・・・もし捕まったら・・・。
ゾロも、サンジ君も、ルフィも、ウソップも皆それを分かっていたのだ。


ゾロはなおも腕を掴む手に力を込める。
「ゾロ!やめて!」
半ば涙声になりながらなんとかゾロから逃れようとする。
そんな私を軽々と担ぎ上げると、朝出て行ったままのベッドの上に横たえられた。
「やだ!」
その腕の中から抜け出そうとゾロの身体を押すが、その大きな身体はびくともしない。
背中に冷たいものが走る。


この感覚はサンジ君にも感じた・・・これは恐怖だ。

その時私は初めて男の人を怖いと思った。


考えてみれば今までサンジ君を男として認識した事はなかった。
せいぜい仲のいい同性ぐらいにしか思っていなかったのかもしれない。
だから怖かったんだ。見た事のない「男」の部分を見たから。


「ゾロ・・・やだ。ごめん・・・なさい。」
泣きじゃくる私を見て、ゾロがやっと身体を退かした。
シーツを引っ張り、私の涙を拭く。
「・・・ちょっと頭に血が登っちまって・・・悪かった・・・。」


極まり悪そうに謝るゾロに、もう恐怖は感じなかった。

 

 

続く

焼きもちぞろ。強気なサンジ。

・・・続く。