可愛い人

 

誰もいない部屋にペンの音だけがやけに響く。
もう日課になってしまったキッチンでの日誌書き。
サンジ君が片付けたキッチンはやけにきれいで、どこか寂しささえ感じさせる。
最後の言葉を書き終え、小さなため息とともに顔をあげる。
グランドラインに入ってから信じられない事が多すぎて、日誌も何を書いていいのかさえ分からない。
昨日の出来事でさえ、もう夢の中のようだ。
冷静な文章はかえって事実を嘘にも思わせてしまう。
「なんだ。起きてたのか?」
急に扉が開き、ゾロが入ってきた。
手にはたくさんの包帯と、薬。
シャワーでも浴びてきたのか肩からタオルを下げている。
「もう寝るわ。」
「そうか。」
そう言って椅子に腰掛け、手に持った包帯をほどき、ぎこちない手付きで身体に巻き付け始めた。そのあまりの乱雑さに思わず口と手が出てしまった。
「あ、薬も塗らずに何やってるの!貸して!やってあげるから。」
「い、いらねえよ。自分でやる!」
珍しくゾロが慌てて、私の手から薬を遠ざけたが、机に半ば乗るようにして無理矢理それを取りあげる。
「もう、見てらんないわよ。ほら。おとなしくして。こっちの端持って。」
有無を言わさぬ様子に観念したのか、ゾロはしぶしぶ言う事を聞き、包帯の端をもち、両手をあげた。
大きな傷口はまだ熱を持っているようだ。化膿はしてないが、まだ塞がってもいない。
その傷口をあまり見ないように顔を背けながら包帯を巻く。広い身体に包帯を巻く度にどうしても身体が密着してしまう。
鼻をくすぐる香りは自分の物とは明らかに違っている。シャワーを浴びてきたばかりなのに、同じシャンプーを使っているのに、なんでだろう。などと関係ない事を考えてしまった。
「・・・。」
ゾロは何も言わず、天井や、キッチンの奥、テーブルにと、目を動かす。どうやら目のやり場に困っているようだ。

「できた。」
ぽんとゾロはきれいにまかれた包帯をたたく。ゾロはしげしげとそれを眺めてへえと声をあげる。かなり感心した様子にこっちも嬉しくなる。
「上手いな。」
「これぐらいできて当然よ。上手い下手もないわ。」
その言葉にむっとしたのか、残った包帯を持ち、椅子から立ち上がった。
「悪かったな。下手で。もう手を出すなよ。自分でやるからな。」
まるで子どものように怒りながら大股でキッチンを出て行ってしまった。

あらあら、怒らせちゃったかしら?

追い掛けようと席を立つとすぐに扉が開いてゾロが顔を覗かせた。
「とりあえず礼はいっとくぞ。」
胸の包帯を親指でとんとんとたたきながら、照れくさそうに言った。
その様子に愛おしさが込み上げてくる。
駆け寄る間もなくまた扉は閉められてしまった。すとんと席に腰を下ろし、先ほどまで書いていた日誌の表紙の文字を指でなぞる。込み上げてくる感情を押さえられなくて、日誌の表紙にざざっと指で大きな波を書いた。

 


次の日、同じ時間にゾロはキッチンに入ってきた。手には包帯、薬。
見ろと言わんばかりに私の見える位置に大きな音を立てて座る。
もう日誌は書き終わっていたのでほおづえをつき、その様子をじっと見る。
ゾロは昨日私がやってあげたとおりに、薬を塗り、包帯を準備する。
ちらっと私を見ると、包帯をまきはじめた。

ふふ。見ててあげるから早くやんなさい。

ほいほいと手で促すとむっとした顔をして作業を始めた。
やはり手付きはぎこちなく、途中包帯を落としたりもした。
その度にちらちら私に目線を送る。私の顔がにやけるのでゾロもだんだん不機嫌になってきたようだ。
途中までまいて、その出来映えに不満だったのか、口を曲げて私をちらっとみた。
とびっきりの笑みを浮かべておまけに首もかしげてみせる。
すると私から一度目をそらし、考えるように天井を見あげた。
そして、大きなため息をつくと、それまでまいた包帯をほどき、ぶっきらぼうに私の方に差し出した。
「・・・やってくれよ。」
その様子が可愛くて可愛くて、思わず飛びかかってキスしそうになってしまった。
「強情なんだから。」
すんでのところで思いとどまって、椅子から立ち上がり、ゾロの近くに歩み寄る。
その間もゾロは私を見る事なくつん、と、拗ねた子どものような顔をしていた。


もう、なんて言ったらいいのかしら、この気持ち。
ゾロの額に軽くキスをして包帯を手に取る。

大好きよ。私の可愛い人。

 

らぶらぶ?これ書いてるとき、
一人でにやけてたんですけど。
あーーー。満足。

 

ちょっと書き足し。03.2.27