いと小さき君のために

 

 

その時、旅をはじめたばかりの小さな海賊団に戦慄が走った。
おそらく誰も考えた事がないであろう「死」の恐怖。

ゆっくりと崩れ去る小さな身体に船員達はただただうろたえるだけであった。

 


ナミが高熱を出してから何日たっただろうか。
疲れから来る熱だろうと誰もが思った。しかしその期待は、痩せ細っていく身体の前に、もろくも崩れ去った。
最初は明るく励ましていた船員達にも焦りの色が見えかくれする。

 


医者がいない。

 

この事を何度呟いた事だろう。
明るくふるまっても、美味しい料理を出しても、ナミを助ける事ができない。
その時程自分達の無力さを感じた事はないだろう。
唯一の救いは、ナミが無理にでも笑顔を見せてくれる事だった。
熱で頭がもうろうとしているにも関わらず皆を励ましてくれている。


自分は大丈夫。心配しないで。


青い顔でそう何度囁かれた事だろう。

 


励ます立場の人間が励まされてどうするんだ。


そう誰かがつぶやいた。

 


「・・・島は見えねえな。」
ルフィが遠くを眺めながら呟いた。
「そう簡単には見えねえだろ。ほれ、いかりを下ろせ。直に日が暮れる。」
ウソップが言った。
「航海はナミがいなくちゃできないんだ。俺達は甘えすぎだったんだよ。」
やや自嘲ぎみにウソップが言う。

器用な彼でも航海術を扱うには知識も経験もなかった。ナミから本を借りて勉強してはいるが所詮付け焼き刃。実際の海には通用しない。
「・・・そうだな。」
ルフィが海へいかりを投げ込む。
それはルフィとて同じ事だ。仲間がいなくては何もできない。自分にできる事など何もないのではないだろうか。その事を自覚させられる。
「おい、飯だ。あんまり外にいると風邪引くぜ。これ以上病人の世話は出来ねえからな。」
サンジの声が静かな甲板に響く。
手にはナミ用の食事があった。すこしでも栄養のあるものをと考えられた病人食だ。


俺にはこれしか出来ない。


一番冷静だったのはサンジではないだろうか。
できる事、出来ない事を彼はよく分かっていた。そして自分が無力である事も。
「じゃあ、食べさせてきます。」
ビビが食事を受け取り、女部屋に向かう。


こういう時、女性がいてよかったと心底思う。
彼女も強かった。彼女の強さに励まされる事もしばしばあった。
ともすればどこまでも落ち込んでいきそうな男達を持ち前の明るさでカバーしてくれるのだ。これ以上ない強い味方だ。


「・・・おう。」
みかん畑のほうからゾロが歩いてきた。手にはバーベルを持っている。どうやらトレーニングをしていたらしい。
ゾロにとってなんでもない重さのバーベルを一日中トレーニングと称して振り続けている。
彼のくせなのか、心配事があるとそれを忘れるかのようにこういったトレーニングをしているようだ。
「またやってたのかよ。そんなことよりナミさんの様子を見に行ったらどうだ?」
「・・・うるせえよ。」
最初こそナミの部屋に顔を見せてはいたが最近一度たりともナミの様子を見にいってはいない。サンジにはそれが感に触る。
「心配じゃねえのかよ。」
「皆見てるだろ。」
「そうじゃねえだろ!!」
自然とサンジの声が大きくなる。


この男。お前の事をナミさんがどれだけ待ってると思ってるんだ。

 


サンジは怒りをなんとか押さえ、船員をキッチンへと促した。

 

 

 

続く

そういえばナミちゃんが熱出した時の話書いてなかったと思って。
最初から痛そうな話やね。
どうすべ。