医務室には怪我の治療を終え、横たわるゾロがいた。
ベッドにそっと近付き、手をかざして呼吸を確かめる。
大分落ち着いたようだ。顔色はよくないがあれだけ血を流したのだから当然と言えば当然か。
ナミはゾロのベッドの横の椅子に座り、ベッドにほおづえをつき、まだ夢の中にいる剣豪の見つめた。
外では喜びの宴が終わる事なく続いていた。
一緒に闘ってくれたルフィやサンジやウソップもこの喜びに浸っている事だろう。
「ん・・・あ・・・ナミか・・・。どうした?」
人の気配にゾロが目を覚まし、脇にいるナミに目をやった。
「大丈夫かどうか見に来たの。」
「そっか・・・こんな傷どうってことねえよ。」
起き上がろうとするゾロを手で押しとどめる。
「もう少し寝てて。普通の人なら死ぬところよ。」
少し不満げな顔をしてゾロは言う事に従い、ベッドに身を沈めた。
「・・・ありがと。」
「あ?」
「おかげで皆自由になれた。」
「そっか。」
ゾロは天井からナミへと視線を動かすと深い瞳で真直ぐにナミを見た。
そらす事も出来なくて、しばらく見つめあっていた。
「お前は?」
「え?」
「お前も自由になれたのか?」
ゾロの言葉にナミはどきりとした。
ゾロはナミの本心を前から見抜いていた。アーロンに捕われている事も、自分達を裏切ってはいない事も。
「・・・ええ。なれたわ。」
「そうか・・・ならいい。」
そういうとゾロはまた天井を見る。まだ痛いのか微かに眉をひそめる。
追い掛けてきてくれてありがとう。
闘ってくれてありがとう。
どの言葉も何も意味をなさないように感じた。
「なにか食べる?持ってきてあげようか。」
「そうだな。そういえば腹減った。」
ゾロの元気そうな姿に笑みをこぼすとナミは椅子から立ち上がろうとした。
「もう少しここにいろよ。」
ゾロの言葉に目を見開く。
「外が騒がしいのにここに一人でいるのはつまらん。」
相変わらずナミを見ずにぽつりと呟く。
ナミはまた椅子へ座る。ベッドに軽く顎をかけると少しベッドがきしんでゾロの身体が少しだけこちらを向く。
「皆、喜んでるわ。あんたたちのおかげ。」
「別に村のためとか考えてやったわけじゃねえから。」
ゾロの言葉につい私のため?と聞きそうになったが、目をそらしてやめた。
「あ。そうだ。お礼してなかったね。」
「お礼?お前がか。」
不振そうに見るゾロに視線を落としつつ、ナミは立ち上がり、ゾロの額に軽くキスをした。
一瞬ゾロの手が動いた。
唇を離してゾロの顔を見る。少し驚いたような顔。
「かわいいナミちゃんのキスよ。高いわよ−。」
にこりと笑いかけるとゾロの顔が少し赤くなったような気がした。
自分の顔は赤くなっていないだろうか。そんな事を考える。
「そうかよ。」
ゾロは不機嫌そうに呟く。
「じゃあ、ちょっと待ってて。なにか持ってくるから。」
「おい。」
呼び止められると同時に手を引かれゾロの上に倒れこむ。
「・・・!」
「・・・つー・・・。」
驚いたが、それよりもゾロの痛そうな様子に慌てて身を起こそうとする。
ゾロはそれを制し、ナミを軽く抱き締める。
「ちょっと!怪我してるのに!」
「大丈夫だ。」
触れた部分からゾロの体温と鼓動が伝わってくる。
「もう!ふざけないで!」
どうしてゾロがそんな事をしたのか理解できず、なんとか身を起こそうとする。
「ふざけてねえ。」
「・・・じゃ・・・何よ。」
淡い期待に心が弾む。
「・・・なんとなく。」
その答えにがっくり肩を落としたがこの状況はあまりに心地よくナミは力を抜いてゾロに身を預ける。
その様子にゾロは片手でナミの頭をゆっくりと撫でる。
「まるで子どもみたいな扱いね。」
「今日ぐらいはありだろ。お礼のお礼だ。」
「何それ?・・・ま・・・いいけど。」
外は騒がしいくらいなのに、そこだけ時間が止まったようにあたたかな空気が流れていた・・・。