その日はなぜか全員の表情が暗かった。
本当なら今日はナミの誕生日。順調に航海が続けば前日には街について、盛大に祝ってやれたのだが、予期せぬ嵐が重なり、大幅に到着が遅れてしまったのだ。
それでもなんとかお祝いをしようと朝から釣りをするクルーや、ある材料でなんとか豪華な料理を作ろうと悪戦苦闘するクルーで船内はにぎわっていた。
「別にいいのに。街についてからでも私はかまわないわよ。」
ナミは船員達の気遣いを嬉しく思っていたし、誕生日を皆が覚えていてくれた事だけでも胸が熱くなっていた。
それでも船員達はなんとか準備を整えると、月明かりの下ささやかながら誕生パーティを開いた。
「ナミさんのお誕生日に乾杯!」
「かんぱーーい!」
サンジの声とともにグラスが天高く掲げられる。
「ありがとう。皆。」
「すみません、こんなものしか用意できなくて、本当ならフルコースでおもてなしして朝まであなたの生まれた日を祝ってあげたいのに。」
どさくさにまぎれて手を握るサンジにゾロはきつい視線を送った。
「プレゼントも何も用意できなくてわりいな。」
ウソップがすまなさそうに言った。
「ほんと。気持ちだけで嬉しいわ。皆ありがとう。」
そう言っては見るが、船員達の表情は晴れない。
「せめて飲むか。酒が足りねえぞ。クソコック。」
「なんでてめえが指図する!!今日はナミさんの誕生日だぞ!!」
「サンジ君。もっとお酒飲みたいなー。」
「はい。喜んでナミさん!!」
打って変わった態度にゾロは舌打ちをした。
一番重い顔をしてるのはゾロかも知れない。
一応、気持ちを確かめあってから迎える初めてのナミの誕生日。
何かしてしてやりたいところだが、金はなく、街にもいけずにどうすることも出来ないのが腹立たしかった。
船員達がほろ酔い気分で流れる風に身をまかせはじめたころ、ナミがぽつりと呟いた。
「あーー、楽しい。こんな楽しい誕生日初めて。皆から色んなものもらって私って幸せ者ね。」
船員達が不思議そうに顔を見合わせる。
「ルフィからは明るい笑顔を。」
ルフィが眠たそうな目をぱちりと開いた。
「ウソップからは愉快な嘘と細やかな心遣い。」
ウソップは赤くなった鼻を照れくさそうに擦った。
「サンジ君からは美味しい料理と甘い言葉。」
「お望みならいつでも!ナミさん!」
「チョッパーからは豊富な知識と健康を。」
「う・・・うるせえやい!うれしくなんかねえやい!」
ニコニコしながらチョッパーが悪態をつく。
「ニコ・ロビンは大人の女の語らいを。」
少し離れたところにいたニコが驚いたように肩を震わせた。
「そして、ゾロからは・・・。」
ナミの言葉が切れたので船員達がゾロとナミに目を走らせた。
「私のストレス発散の場所を。」
「・・・な・・・!」
予期せぬ言葉にゾロは口をつぐんだ。
他の船員達は「ああ、そうだな。」「よく殴られるもんな。」「寝てるもんな。」などと口々に言い合っている。
「黙れ!お前ら!・・・ちくしょう!」
そういって不機嫌そうにグラスを開けた。
「素敵なクルーに乾杯。」
ナミがにこりと笑いグラスを挙げた。
その笑顔は今までで一番美しいと誰もが思った。
「乾杯!!!」
もう一度夜空に向かってグラスが掲げられ、航海士の誕生日を祝うに相応しい輝きを船中にちりばめた。