当たり一面瓦礫の山。
血だまりの中に中に倒れている男二人。
「・・・一体どうやったらこんなことになるわけ?」
私は半分呆れながら痛めている左足を引きずりゾロの元へとむかった。
「ちょっと、ゾロ。生きてるんでしょ?」
はあはあと肩で息をするゾロを揺り起こす。
もう少し利口な闘い方しなさい。とか、いつまでも寝てるんじゃないわよ。とか、そんな言葉がいくつも出てきたけど、喉が詰まって言葉にならなかった。
「ナミか・・・あの女は?」
ゆっくりと顔をあげると当たりを見渡す。人がこんなに心配してるのに気にもしてない様子にちょっと腹が立ったけど、とりあえず元気そうだからチャラにしてあげる。
「やっつけたわよ。そっちも勝ったんでしょ?」
「・・・ああ・・・勝った。」
不機嫌そうな顏してるのよ。私。もう少しかまってくれてもいいんじゃない?
そう気配で言ってるのに相変わらずの鈍感男は目線だけをMr.1に向け、大きくため息を付きながら起き上がった。
「そ。ならいいわ。早く行きましょ。ビビたちが心配だわ。」
起きあがれるなら大丈夫。ふにゃっと顔が緩むのも惚れた弱味ってやつ?ああ、やんなっちゃうくらい安心してる私。
立ち上がろうとして足に力を入れた時に・・・
「ナミ。」
急に呼び止められたかと思うと腕を引っ張られ、バランスを崩してゾロの胸の中に倒れ込む。
「なにす・・・!」
言いかけた言葉はゾロの唇によって遮られた。突然のことに目を見開いたまま。ゾロも目を開けて私を見ている。
その目は闘いのせいか充血していて、ぎらぎらとした輝きを放っている。
待って、私、さっきの闘いで口の中砂だらけだし、唇がさがさで、ああ、肌だってぼろぼろなのに!
私の考えなど無視するように鉄の味のぬるりとした固まりが口の中に入ってくる。息まで飲み込まれそうな程くわえられて、まるで食べられているみたい。
口の中の鉄の味に頭の中まで溶かされてしまいそう。
「ちょっ・・・ぞ・・・。」
言葉も飲み込まれるように舌が、唇が、私を責める。
いつものゾロじゃない。どうしたんだろう。
そんな考えも血の味と共に飲み込まれそうだ。
満足したのかゾロが唇をゆっくりと離す。乱れた息が至近距離の二人の間に血の固まりのような存在感を放つ。
かさついた大きな手で私の頬を包み、じっと見られた。
「ゾロ・・・?」
あがった息のせいで声が上ずる。
「うし!気合い入った!」
さっきまでの荒々しさはどこへ、そう言って私の頬を軽くぺちっとたたいた。
「は?」
さっぱり事情が読み込めず間抜けな声を出す。
「おら!行くぞ!」
砂埃を立てて立ち上がるゾロはいつものゾロで私は首をかしげた。
「わけわかんないんですけど!何すんのよ!この非常時に!」
「・・・勝利の美酒の味見だ。気にすんな。」
「は?」
ゾロの言った意味が分からず眉を潜める。・・・美酒?何言ってるの?この男。
「これが終わったら盛大に飲むぞ。逃げんなよ。」
そういってにやっと笑った。その笑いには覚えがあった・・・まさか・・・。
「・・・勝利の美酒って・・・私・・・?」
「だろ。一国を救った後に飲む最高の酒だ。そのくらいの価値はあんだろ?」
余りにも予想通りな内容に私はぽかんとした。
それでも、まあ、そうね。それくらいね。などと妙に納得してしまった。
「行くぞ。ほれ。」
その様子を見てゾロも安心したように私に背中を向けた。おぶされと言う意味だと知ってちょっと嬉しくなる。
おぶさって、久しぶりに感じる広い背中に少しだけ頬をよせてみる。鼻に血の匂いがきつく感じる。相当血を流したようだ。
「まったく・・・。」
「あ?なんか言ったか?」
「別に。」
こんな状況で、あんなくどき文句。断る女がいると思う?
あんたって口数少ないくせにサンジ君よりくどき上手だわ。
後ろから耳もとに怪我が治ってからね。とささいた。
ゾロはすこし不満そうに口を曲げて
「お前はすぐどっか行くから、早めがいい。」
と言った。
どこにも行かないわよ。あんたって危なっかしくて目がはなせないもの。
これが終わったらたくさん抱き締めてあげる。
いっぱいキスしてあげる。
そして一緒に、国を救った勝利の味に酔いしれましょう。
ずっとずっと、あんたが勝利に酔いしれる事ができるようにそばにいてあげるから・・・。