ゾロは倉庫の扉を開け、後ろ手で扉を閉めた。
「ナミ。」
呼び掛けると不安げな顔で振り返った。
「逃げるなら今だぞ。止めやしねえよ。」
「逃げないわよ。シャワー浴びてくる。」
内心、逃げてほしかった。
ナミはバスルームへと向かった。
途中振り返り、目線でゾロを部屋へと促す。
扉が閉められ、ナミの姿が見えなくなるとゾロは頭をかきむしった。
「ちくしょう!」
なんでこうなるんだ。これじゃあ、ナミをまた泣かせてしまう。
イライラした気持ちを押さえながら女部屋の階段を降りる。
でも、この展開を俺は待ち望んでいたはずだ。ナミを抱きたかった。
あの細い身体を抱き締めてめちゃめちゃにしてやりたい。
それができないもどかしさがよけいゾロの気持ちをナミへと向けさせた。
自分の欲望だけでナミを抱いていいのか。そんな思いも少なからず彼の中に存在していた。
俺は卑怯かも知れない。ナミの気持ちも分からないのに身体だけ求めるなんて。
部屋の中をぐるぐると歩き回る。
激しい自己嫌悪に陥り、ゾロは頭をかかえた。
ドアが開く音がし、ゾロはどきりとしてバスルームの扉へ目を向けた。
上のバスルームで音がする。水音がしてきて、シャワーを浴びるナミを想像してゾロは顔を赤らめた。
どうやら緊張しているらしく心臓が跳ねている。
やばい。もちそうにねえ・・・。
今日はナミの気持ちを確かめるだけだった。
いやなら抵抗するはず。そこで止める予定だった。しかしこの状況は予定外にゾロの理性を限界に押し込む。
ナミを無理矢理犯してしまう。
そんな事を考えていると扉が開き、ナミがゆっくりと階段を降りてきた。
濡れ髪のナミはいつもより悩ましげでゾロはしばし黙り込んでしまった。
「・・・ゾロも入るんでしょ?」
ゾロの視線に気付いたか、少し頬を染めながらナミが言った。
「あ・・ああ。」
動揺を気取られたくなくて急いで階段をあがる。すれ違う瞬間、ナミの身体からほのかに香る匂いにゾロは言い様のない衝動を覚えた。
ナミはベッドに座り、タオルで軽く髪をたたいた。
座ったところはほんのりゾロの温もりが残っていた。
ゾロに抱かれる。
そう考え、ナミはさっと顔を赤らめた。
「抱かせろよ。」
ゾロの言葉に驚きと嬉しさを感じた。
もう、ゾロに抱かれるんだったらなんでもいい。
そんな気持ちから承諾の返事を出した。断られると覆っていたのか、ゾロはすごく驚いた顔をした。でもその後すごく悲しそうな顔をした。
呆れられたのかな?そんな簡単に承諾する女って・・・。
ゾロも・・・私の事が好きで抱きたいわけじゃない。きっとあの日の事を確かめようとして・・・。
好きだなんて知られたら迷惑がられるのは分かってる・・・。でも・・・どうしても・・・。
ナミはそっと先程抱き締められた感触を確かめるように自分の身体を抱いた。
ゾロがバスルームから出てきたらしい。バスルームのほうからがたがたと音がする。
それから少し静かになった。扉の前にはいるらしいがなかなか入ってこようとしない。迷っているのだろうか。
そのうちに意を決したように扉が開きゾロが入ってきた。
ゾロは何も言わず、ナミの脇に腰掛けた。
そしてタオルで頭をがしがしと擦るとおもむろにナミを見た。
「・・・いいのかよ。」
ゾロの言葉の意味を感じ取ってナミはゆっくりとうなづいた。
ゾロは大きなため息を付いた。
心無しか顔が赤い。
しばしの沈黙。その間もナミの髪からは雫が落ちる。
ゾロがそれに気付き、ナミが握りしめているタオルをとり、ナミの頭の水分を乱暴に拭き取った。
ナミは目の前にあるゾロの身体に急に気恥ずかしくなり、顔を染めてうつむいた。
「ナミ。」
急に呼び掛けられ、ナミはゾロを見上げた。
「嫌だったら言えよ。やめてやっから。」
ゾロの言葉にナミは涙が出そうになった。
なんでそんなにやさしいの?期待していいの?
ゾロはタオルをナミの頭にかぶせたままナミにキスをした。
触れるだけのキス。
ゾロはそっと目を開けてナミをみた。
瞳を閉じたままのナミにもう一度キスをする。唇を舌でなぞる。ナミは目を閉じたままだ。肩に手を置くとナミは少し緊張しているのか身体が固い。
ゾロはナミをきつく抱き締め、その冷たい背中をさすった。
早い鼓動はナミの緊張を物語っている。
柔らかいナミの身体に自分の意識が飛びそうなのを必死で堪え、ナミの背中をさすり続けた。
大分落ち着いたのかナミは深く息をして、それと同時に身体の力がふっと抜けた。
こんなにガチガチなくせに・・・。
それを確認してゾロはもう一度ナミにキスをする。
今度は深いキス。
ナミは身体をぴくっと震わせたが特に抵抗するでもなくゾロを受け入れる。
ナミの様子を薄目で確認するとゾロはゆっくりとナミをベッドに横たえた。
ナミは目を閉じたままゾロのなすがままになっている。
「・・・いいのか?」
確認するように聞くとナミは目を開け、ゾロをから目を離さずにこっくりとうなづいた。
ゾロの熱い手がナミの身体を這う。
その間もナミは抵抗する事はなかった。時折、眉をよせ切なげなため息をつく。
ゾロはその都度ナミを確認するように顔を覗き込む。彼の額にも汗がうっすらと滲んでいる。
ナミの声に頭をかすめる何かをなんとかたぐり寄せようとするが自分の意識が飛びそうになり慌てて我にかえる。
「・・・ゾロ・・・。」
切なげな声でナミが言う。
「・・・どうした?」
ゾロの声もかすかに震えている。
いやか?
弾け飛びそうな意識の中でしぼり出そうとした声はナミによって遮られた。
ナミは今までさまよっていた腕をゆっくりと、そして確かにゾロの背に廻した。
ゾロによって与えられる甘い拷問の中でナミは思い出した。
あの日のゾロの温もり、ゾロの声。
「・・・ナミ・・・。」
ゾロの声がナミの耳もとに落ちる。掠れた声に、ナミは腕に力を込め、ゾロに囁いた。
「・・・いいよ・・・。ゾロ・・・。」
ゾロはその言葉にぼんやりとした記憶を取り戻した。
「・・・ナミ・・・!」
ゾロはきつくナミを抱き締めるとナミにキスの雨をふらせた。