私と私

 

サンジ君の料理は口では言い表せない程美味しかった。
本人はまだ見習い中って言ってたけどその腕前はプロ級だと私は思った。


相変わらず飛び交う罵声には慣れないけど、私一人のためにサンジ君があれこれしてくれてこれはこれで女王様みたいな気分。

 


最後のカフェを飲み終え、ほうとため息をつく。
「どうしました?何か気に入らない点でも?」
サンジ君が心配そうに聞いてきた。
「ううん。すごく美味しかった。今日はありがとう。」
にこりと微笑むとサンジ君の目がハートになる。
「御満足いただけて光栄です!!」
スキップしながら厨房へ行く後ろ姿はまるで子供のよう。
口元から笑みがこぼれる。

 


「な、可愛い子だろ?」
厨房にいるゼフオーナーにサンジがうきうきと話し掛ける。
「そうだな。お前にしちゃ上出来だ。可愛いし、人当たりもいい。・・・だがな。」
「なんだよ。」
ゼフの口調にサンジの顔が険しくなる。
「ああいう子はなかなか本心を見せんものだ。気をつけないとやけどするぞ。」
「・・・?」


そんな会話が裏でされているとはつゆ知らず、私は暮れていく風景をぼんやりと眺めていた。

 

 

「今日はありがとう。」
「すみません。本当は家まで送りたいんですが・・・。」
「いいのよ。忙しいんでしょ?駅まですぐそこだし、大丈夫よ。」
「そうですか?何かあったらすぐ連絡下さい!」
「大丈夫だってば。」
くすくすと笑う私とは対照的にサンジ君はやけに真剣な顔をしていた。

その目に少々居心地が悪くなり、目線を帰り道に泳がせる。

「ナミさん。」

少し乾いた声がして、肩を引き寄せられた。

何が起こったか分からなかった。

唇に柔らかく熱い感触。

 


キス、された。

 


触れるだけのキスだったけど私はひどく驚いていた。サンジ君は照れながらいつもの優しい笑顔をしてくれたけど、私はどう返していいか分からず渇いた笑いを返す。

「じゃあ。」
そう言ってサンジ君は手を振った。
「・・・じゃあ・・・。」
私もそれに軽く手を振り、駅へと向かった。

ぼんやりと電車に乗る。
聞きなれた駅名がアナウンスで流れ、それにつられるように降りた。
身体が向くまま歩き続け、気付くとゾロの家にいた。


あいつはいるだろうか


ドアをノックしても返事がない。


そういえば夜に来たことなんかなかった。バイトか、サークルか、どちらにしても家にはいない。


疲れてドアを背に座り込んだ。痛いと思って足をみると、皮がめくれて血が滲んでいた。


せっかく呼ばれたのだからと新しいサンダルで来たのが間違いだったのか、もう考える気力もなく、疲れに任せ意識を手放した。

 

気付くと温かい蒲団がかけらていた。どこか見なれた部屋。
「起きたか。」
ポカリを片手にゾロが言った。首にはタオルを巻いている。シャワーでも浴びたらしい。
「何やってんだ?人の家の前で眠りこけやがって、あぶねえだろ。」
寝起きでぼんやりしてた私はその言葉を理解するのに時間がかかった。


見ると足には沢山の絆創膏が無造作に張られていた。


「なんか用だったのか?」
それに返す言葉を思い付かなくて視線を泳がせる。
それに気付いたのか何事もなかったかのようにまたペットボトルから飲みはじめる。


「泊まって行くんだろ?」
ゾロの言葉に驚き、顔をあげる。
「もう終電ねえし、俺も早く寝てえんだ。送っていくのも面倒だから明日帰れ。」


何度も肌を合わせたが泊まるのは初めてだった。


どうしようか考えていると、さっさと着替えの準備をして私に放る。


「何してんだよ。さっさと寝ろよ。俺はこっちで寝るから。」
そういって毛布を床に敷きはじめる。


じっとそれを見ていると。急に思い出したかのように乱雑に物の置かれた棚から鍵を見つけだし私に手渡した。


「合鍵。俺がいないとき適当に入ってろ。またあんな所で寝られたんじゃ危なくてしょうがねえ。」
それだけ言うとごろりと横になった。


「ねえ、こっち来ないの?」
「お前がしたくなさそうだからしねえ。」
「いいよ。して」
「やだね。マグロ抱いたってつまんねえ、」
「声なら出せるよ。」
「そんなんに騙されるか。何回やったと思ってる。」
「でも泊めてもらってるし…。」


「宿泊代でやらせるっていうならマジ怒るぜ。」


聞いた事のない低い声。でもそれにひるんでなんかいられない。

 


「してもいい。だから一緒に寝て。」

 


私の言葉にゾロは眉をひそめた。

 


「…しねえけど寝てやる。それでいいか?」

 


私はこっくりとうなづいた。

 

 

 

ごち。

ふーーーーーーー。お泊まりです。
でも期待してる事は何一つ起きません。 (ネタばらすなっつの)