飯も食い終わって、ほうと一息つく。
「美味しかった?」
かいがいしく食器を片付けながらナミがにこやかに微笑む。
「ああ。」
本当はお前をたらふく喰いたい。と喉まで出かかったがなんとか飲み込んだ。
食器を洗おうと腕まくりをするナミを後ろからそっと抱き締める。
「・・・ゾロ・・・!?」
浮いた手を洗い場のへりに押し付けて、柔らかな髪に顔を埋めてその香りをかぐ。
甘い、ふわりと柔らかい香りがする。
ああ、喰いたい。喰いたい。このまま抱き上げてベッドに押し付けて邪魔な服をすべて剥ぎ取って。
「ゾロ・・・。」
ごくりとナミの喉が鳴った。緊張した身体に息を吹き込むように乾いた声が俺の耳に届いた。
はっと我に帰って腕の中のナミの様子に気付く。
ああ、やべえ。
これから起こる事を予感してか、諦めたような、悲しげな背中。
「・・・。」
最後とばかりにぎゅうとナミを抱き締めて胸いっぱいにその香りをため込む。
「おし!あとは俺がやるから。」
ぱっとナミを離して、洗い物に手を伸ばす。
ナミは不思議そうな顔をして、顔だけこちらに向ける。
「洗っておくから出る準備しな。帰るんだろ。送って行くから。」
そういうとほっとした顔をして、部屋の隅に置いてあったコートに袖を通す。
本当に、いつになったら分かるんだろうな。
抱かねえ、でも抱きてえ。
早く心を開いて俺を受け入れろ。
遠い背中にそっと囁く。
「雪・・・降りそうだね。」
帰り道でナミがぽつりと呟いた。
最近寒い事は寒いが雪は降ってこない。
待ちわびているようにナミが空を見上げた。
「そうだな。」
それ以上何を言えばいいのか分からなかったので俺は口をつぐんだ。
「寒くない?毎日裸足で練習して。」
とと、とナミが駆け寄ってきて俺の腕にじゃれつく。
「もう慣れた。大体寒いなんて言ってらんねえだろ。」
「そうだね。」
少し寂しげにナミが離れる。そのまま俺の一歩後ろを歩こうとするので、離れる手を引いて俺の横につける。
「・・・ゾロ・・・?」
「寒い。離れんな。」
握った手に力を入れるとナミがふにゃりと顔を緩めてまた腕にじゃれついてきた。
その様子はまるで子どものようで、今まで見てきたナミとのギャップに俺は戸惑ってしまった。
「おお、送り狼。」
扉を開けたのはナミの姉のノジコだった。
「なってません・・・。」
「そーお?そりゃ残念だね。」
明るくさっぱりした性格の彼女は俺とナミの関係に素早く勘付いたらしく、こうやってナミを送ってくる毎に声をかけてくれる。
「ただいまー。」
「あんたも金曜の夜に帰ってくるんじゃないわよ。」
「何よ。ノジコだって今日はデートじゃなかったの?」
「うっさいわね。今日は押し倒すまでは行ったのよ!」
「・・・すみません。俺・・・帰ります・・・。」
女同士のあけっぴろげな会話についていける訳もなく、俺はそうそうに引き上げる事にした。
「あ、ゾロ。明日はどうするの?」
「ああ、俺は道場で練習する。大会が近いからな。ヒマだったら来いよ。」
「・・・ん。分かった。メールするね。」
「ああ。」
ナミとノジコに手を降って俺はそこを後にした。
誰も待っていない部屋に帰るのがなんだか寂しく、家に帰る時間がやけに長く感じた。